日本で唯一の「猫城主」豪雨災害で落ち込んだ客足をV字回復、コロナ後にも期待「収まったらまた会いに行く」

唯一の“猫城主”/さんじゅーろー公式インスタグラム(sanju_ro_)より
 “看板猫”や“猫駅長”はよく耳にするが、おそらく“猫城主”は日本でも唯一。日本三大山城の一つである備中松山城(岡山県高梁市)の城主を務めるのが、猫の「さんじゅーろー」だ。平成30年7月豪雨の後から城に住み着き、その人気ぶりから「災害で激減した観光客の客足をV字回復させた」という実績を持つ。脱走を経て城主に就任した経緯、そして西日本豪雨と同じく観光客が減ったコロナ後への期待など、高梁市観光協会・大樫文子さんに話を聞いた。

【写真】「遅いにゃ!」躍動感あふれる家臣とのかけっこ(城内見回り)…可愛すぎる猫城主の毎日

■西日本豪雨の後、山城に住み着いた猫…SNSで話題になり“役職”をもらう

 岡山県高梁市の臥牛山頂上付近(標高430m)に建ち、雲海に浮かぶ“天空の山城”としても注目を集める備中松山城。現存天守を持つ山城としてはもっとも高い所にある、国の重要文化財だ。この備中松山城の城主を務めるのが、猫のさんじゅーろーである。平成30年7月豪雨によって道が寸断されるなどの被害を受けた松山城だったが、なぜかその直後から城に住みつくようになり、“猫城主”に就任するまでになった。

――“猫城主”というのはおそらく日本唯一だと思うのですが、城主・さんじゅーろーが誕生した経緯を教えてください。

 「さんじゅーろーはもともと野良猫で、あるお宅に保護されて飼い猫になっていたのですが、平成30年7月の西日本豪雨の直後にそのお宅を脱走したんです。飼い主さんは災害の爪痕が残るなかを探し回っていたそうですが、なぜかさんじゅーろーは山の中を歩き、6キロも離れた備中松山城に迷い込んだようなんです」

――どうやって生き延びていたのでしょうか?

 「飲まず食わずでは生きられないので、何かしらは食べていたとは思うのですが、お城に辿り着いてからは、職員たちがエサを持ってくるようになりしました。それで居心地が良くなったのか、そのままお城に住みつくようになって。備中松山城も豪雨の影響で観光客が激減していたのですが、『お城にかわいい猫がいた』とSNSで広まり、私たちも知らない間にちょっとずつ話題を集めていたようですね」

――そこからなぜ、“猫城主”ということになったのでしょう?

 「文化財であるお城に動物を住まわせてもいいのかという問題が出てきて、猫をお城で飼うことに理由が必要となりました。さんじゅーろーの存在により、豪雨災害で激減した観光客の客足がV字回復して、すごく貢献してくれていたので、何か役職を与えるのがいいのではないかと考え、正式に“猫城主”になってもらうことになりました」

――ちなみに、もともとさんじゅーろーを飼っていた飼い主さんは、どうされたのですか?

 「地元のケーブルテレビで取り上げられたことで、飼い主さんもさんじゅーろーがお城にいることを知ったそうです。連れて帰るか、どうするか…ということになったのですが、そのときすでに非公式ながらも備中松山城の人気キャラクターになりつつあった上に、猫ちゃん自身も気に入って住みついていたので、飼い主さんは『高梁市の観光の一助になって、かわいがって大切にしてくれるのなら』と、大変ありがたいことに譲渡してくださいました」

――ただ、城主就任前にも“脱走騒ぎ”があったと聞きました。何があったのでしょうか?

 「そうなんです。全国誌の雑誌から取材依頼があったとき、さんじゅーろーはまだ半野良の状態だったため、取材時にいなくなると困るので職員が自宅に連れて帰っていたんです。そうしたら、その家から脱走してしまい、19日間の逃亡生活を送っていました」

――19日間…、よくそれから見つかりましたね。

 「いつもはお城から外に出かけていたので、大体どこにいるのかはわかっていたんです。でも、その日は職員の自宅からいなくなったので、さっぱり行先がわからなくなってしまい…。その頃、さんじゅーろーはすでに高梁市内では知名度のある猫だったので、街をあげての大捜索が繰り広げられました(笑)」

――街をあげてとはすごいですね! そのあと、一体どこで見つかったんですか?

 「職員の家の裏山にいるところを発見されて、衰弱した様子もなく怪我もしていなかったのですが、念のため獣医さんに診てもらいました。その後、あらためて獣医さんを招き、猫の飼い方や生態について勉強会を開きました。さんじゅーろーが過ごしやすいように生活環境をきちんと整えた上で『再入城の儀』を執り行い、“猫城主”に就任したんです」

――城主としてのお仕事はなにかあるんでしょうか?

 「朝10時とお昼2時の1日に2回、城内見回りをしてもらっています。コースは決まっておらず、さんじゅーろーがその日に行きたいところに、管理人が家臣として従ってついて行くという形で散歩をしています(笑)」

――どんな性格なんでしょう?

 「ものすごく穏やかですね。人間が好きで、人が近づいても動じないので、お客様のおもてなしもきちんとしてくれます」

――インスタの写真も素敵ですが、観光客がさんじゅーろーを上手に撮影するコツはありますか?

 「基本的には性格が穏やかで動きもゆったりとしているので、簡単にかわいらしい写真が撮れちゃいます(笑)ただ、やっぱりお城と一緒に撮ったほうがいいと思うので、天守をバックにして撮影すると、観光地の思い出としても残せると思います」

――カレンダーも発売され、人気のようですね。

 「来年用のカレンダーがもう少しで完売という状態です。さんじゅーろーの本を書かれた西松宏さんが撮った写真を使わせていただいたり、私たち職員が日々撮り溜めた写真を使ったりと、いろいろと織り交ぜています」

――動物取扱業の登録もされていると、ホームページにありました。

 「動物を使って直接的にお金儲けをしているわけではないですが、登録をせずに何か問題が起こるよりは、しっかりと許可を取るべきだと考え、登録しました。きちんとした環境でお世話をしていると周知でき、お客様に安心していただけるなら、それに越したことはないと思います」

■コロナ禍で閉鎖したお城で寂しそう…、「収まったら絶対に会いに行く」のメッセージ

――さんじゅーろーが城主になって丸3年。やはり反響は大きいですか?

 「『さんじゅーろーに会うために来た』というお客様も数多く、なかにはSNSでさんじゅーろーを知った海外の方もいらっしゃいました。今までは、歴史好き、お城好きといった、年配の男性のお客様が多かったのですが、さんじゅーろーが来てからは家族連れや若い女性のお客様が増えて、客層も変わってきましたね」

――豪雨災害に続き、昨今のコロナ禍ではお城も一時閉鎖されていたと。

 「そうですね。緊急事態宣言中は閉鎖していました。さんじゅーろーは人間と触れ合うのが好きなので、急にお客様が来なくなって寂しそうにしていました。『コロナが収まったら絶対にさんじゅーろーに会いに行く』と言ってくださるフォロワーさんもいましたし、最近やっと観光客が戻ってきたように思います。すごくうれしいですね」

――今後、さんじゅーろーの活動予定はどんなものがありますか?

 「さんじゅーろーと共に高梁市の観光情報を発信したり、イベントに参加したりといったことは随時行っていきたいです。3月16日を“さんじゅーろーの日”と定めて、毎年その日にLINEスタンプをリリースしているので、来年も楽しみにしていてください」
公開:2021-11-27 09:00
更新:2021-11-27 09:00
ギャラリー [一覧]
↑pageTop